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映画『半次郎』 企画・主演 榎木孝明氏へのインタビュー [映画紹介]


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こんにちは 上野まり子です。
邦画をご紹介の記念すべき第1回に選んだのは10月9日公開になった映画『半次郎』、今日は企画・主演 榎木孝明氏へのインタビューをお届けする。
公開を直前にした10月6日、榎木孝明氏にインタビューをさせていただく幸運を得た。場所は銀座のフィオーリア銀座アリアブル。
時間より少し前に到着した私はロビーで順番を待っていた。そこにさらりと現れた榎木孝明氏、思わぬ時に前もってご挨拶することになった。その親しみのある笑顔と丁寧な物腰に緊張は一気に去って行った。
そしてインタビューは私の番となった。いつものように少し懐かしい思い出話し等をさせて頂いた。



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さあ、インタビューの開始だ。
映画『半次郎』の公開にあたり、やっとたどり着いた感だとその感想を述べた榎木孝明氏。
「半次郎」とは中村半次郎、後の桐野利秋を指す。中村半次郎を語る時、その名には必ず<人切り>と冠が付く。剣の腕がたつゆえに後に広まったイメージだ。次郎と同じ鹿児島県を郷里に持つ榎木氏はおりにふれ、半次郎の事を調べるうちに事実は全く違う事を知り、その事に忸怩たる思いだったという。何とかその冠を払拭し半次郎という人物を通して、日本人が本来持っているであろう“美徳”“礼節”を伝え、あの時代に生きた人々の志を現代に届けたい、そう思い始めたのが13年前、そして構想から10年の時を経た2008年、映画の製作に着手することになる。
2008年8月にはロケ地である鹿児島で映画『半次郎』制作決起会が行なわれた。その席には鹿児島県知事伊藤祐一郎氏、鹿児島市長森博幸氏、そして多くの発起人、協力者が集った。その後、制作資金が集まらずに苦労するなど、数々の苦難を乗り越え、ようやく撮影に向けてのロケハンや西郷隆盛役のオーディション等準備が着々と進んで行き、撮影は2009年9月にスタートした。

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(C)2010「半次郎」製作委員会

企画意図はすでに語られた。では半次郎という人物を榎木氏がどのように作り上げていったのか?
榎木氏自身、中村半次郎が好きだった事、また色々と文献を読んでいくうちに、半次郎はすでに自身の中に住んでいたと言う。つまり演じる為に改めて役づくりをする必要はなかったと言う事だ。

全篇見所が詰まった中、あえて大切なシーンを選ぶとしたら?
選ぶ事は難しいことだけれどあえて選ぶとしたら・・・、生涯ただ一度切ってしまった長州藩士の遺髪を届けに長州藩邸へ出向いたシーン。半次郎が典型的な<ぼっけもんぶり>を見せる。当時としては敵対している藩の人物と親交を結ぶ事はあり得ない。しかし半次郎はこれを期に敵藩の中に多くの友人を持つことになる。それはまさに半次郎自身の人の良さ、純粋さ、実直な人間性を示す。このシーンは半次郎というキャラクターを際立たせた。

半次郎と同じ郷里をもつ榎木氏に<ぼっけもん>の要素があるのか?
氏は近いものがあるだろうと答える。画家でもある榎木氏はインドなど多くの諸国を旅する。何処であれ、誰であれ、物怖じしない性格だと言う。確かに氏は人を緊張に陥れる事はないだろう。“何でも訊いて下さい”と他をとても自然体で受け入れる。

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(C)2010「半次郎」製作委員会

では剣の方ではどうか?
半次郎はトンボの構えと猿叫が特徴の薬丸自顕流の達人。型は単純だが一日に一万回以上振り下ろすという厳しい修練が必要だ。<一の太刀を疑わず、二の太刀は負け>というほど厳しい精神性も求められる。<生のやり取り>は気力の差、死を恐れていては遅れを取る。相手にとって、これほど恐ろしいものはないだろう。榎木氏自身が古武術をたしなむだけにその言葉には実感がこもっている。それは「半次郎」役の性格形成に大きく影響していく。良くも悪くもあの時代の武士にとっては洗脳となって大きく影響する。榎木氏自身は東郷示現流、実際にやってみると刃の使い方などその違いは大きかったという。映画のために改めて習得した薬丸自顕流、指導は加治木 島津家第十三代当主・島津義秀氏に依る。その違いについて具体的に示し、説明してくれた。その場に太刀がないのが残念だった。そんな半次郎たちの戦いのシーンは故郷鹿児島県伊佐市を中心に行なわれた。幕末維新の動乱の時代、原野を駆け巡る戦場のシーンを撮影するには、その場所を探すのにも苦労したであろう。

その様な修練を積んだ半次郎にとって<生きる事>、<死ぬ事>とはどのような事であったか?また<戦う儀>とはどのようなものであったか?
城主に従うこと、それはあの時代の武士の共通の定めであった。しかし幕末、外からの大きな刺激を受けて意識の改革がなされていく。藩の枠に囚われない時代へと移って行く中、彼らの中でその意識は日に日に増して行った。中でも南端の国の薩摩は密貿易など財政的にも豊かで、意識の改革が大だっただろうと思われる。西郷や大久保は下級武士の出で、従来ならば表舞台には出てこられなかった。だが、時代が彼らを押し上げだ。その西郷に傾倒していた半次郎は思想も含め新しい意識の植え込みが成されたと解釈している。一つの枠に囚われない、日本をいや世界が視野に入っていたのではないだろうかと氏は熱く語る。<時代が半次郎を生んだ>、これが榎木氏の見解だ。<生きる事><死ぬ事>より<今をどのように過ごすべきか>、これが大事だったと。<今を生きる事>、それは過去も未来も内在する。それは榎木氏自身の想いでもある。“半次郎も同じ想いだろう。”と榎木氏は語る。だから<半次郎>という人物に着目したと。今から133年も前に、すでにその様に考えている人物が多く居た。それが時代を大きく動かす事になったのだろう。ひとりひとりに内蔵していた<変わらなければならない>という気運。そのことを知れば知る程、<現代の意識は劣る>と言わざるを得ない。<大事なものを忘れさ・せ・ら・れている>と。戦後の民主主義において個人の精神文化に蓋をしようというきらいがあった。日本人が本来持っている精神性が削ぎ落とされて行った結果の現代、もう一度日本人の誇りを取り戻す事が大切だ。


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(C)2010「半次郎」製作委員会

幕末の動乱の時代、西郷に傾倒し、生涯の師と仰ぎ、行動を共にした半次郎。西郷と半次郎の切っても切れない縁、現代に生きる榎木氏には切っても切れない縁があるのか?
“残念ながらない。”とすぐさま答えた。それでもあえて言うなら早くに亡くした父親は大きな存在、無意識でも拠り所になっているという。<親父ならどうするだろう>と常に問うと。
では現代の父親像はどうなるのか?
それには時代も影響しているだろう。氏も自身の子供に対しては自信がないと言う。“時代も考えなければ!”としばし父親の顔を覗かれた。

ところで『半次郎』の監督は五十嵐匠氏、榎木氏とは『HAZAN』、『アダン』等すでに4本の作品を共にしている。武蔵野美術大学で学んだ榎木氏、『HAZAN』で陶芸家板谷波山を演じた時もすでに身についている事も多く、新たに習う必要はなかったという。画家としても活躍している氏の事、当然専攻は絵だと思い込んでいた。ところが専攻は陶芸だと言うことを初めて知った。画家田中一村の生涯を描いた『アダン』でも改めて筆使いを習い必要もなかったわけだ。ところで半次郎と同じく田中一村も死後正当に評価されるようになった人物だ。奄美大島に渡った彼は多くの苦労をした事はすでに知られている。それでもまだ表に出ていない事も沢山あるという。奄美大島にある田中一村記念美術館、その収蔵庫で好きな絵を好きなだけ眺めることが出来るという氏、それは至福の時であろう。

美術好きの私としてもこの話をもう少し紹介したいところだが、やはり話は『半次郎』に戻ろう。

田中一村が再評価されたように中村半次郎も人切りではないと再評価されるだろうか?
世間に根付いてしまった<人切り>という冠、ご子孫や縁のある方々は、大変苦労なさったそうだ。これでやっと汚名が拭われたと喜んでいらっしゃるそうだ。
ところで子孫と言われても私にはピンと来なかった。作品中には妻は出てこない。すっかり家庭は持たなかったのだろうと思い込んでいた。
実は何度も改訂を重ねた脚本には、最初は妻の存在も描かれていたという。しかし予算や尺の問題でその部分は残念ながら語られていない。
実はこの映画すでに九州では公開となっているのだ。関係のご子孫の方の中には公開初日に自ら足を運ぶ方もいらっしゃる等、皆の想いが込められた作品だ。
<現代人に魅力的な人がいない>、それが現在の時代劇ブームの起因になっているのではないか。劇画的時代劇が多い中、一線を画し、表面のカッコよさに流されず、観た人に一歩踏み込んで考えてもらえる作品にしたかったと語る榎木氏。

『半次郎』で伝えたいメッセージとは?
削ぎ落とされてしまった日本人の精神性、<日本人の誇り>を取り戻したい。
<道しるべを 持たない若者たち、道しるべに なれない大人たちにこの作品を届けたい。>
これが、榎木氏がこの映画『半次郎』に込めたメッセージだ。
それで若い人にわかるだろうか?とは私の疑念だ。
榎木氏は<解る人に解れば良い>と言い切る。
最後にあえて問うた、「俳優として大切にしている事は?」
<俳優をやらせていただいている意味を見つけること>、長いキャリアの榎木氏にしてこの言葉、深いものを感じた。
榎木氏は“お疲れ様でした。”と爽やかな笑顔を残して銀座の街中へとその姿を消した。

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(C)2010「半次郎」製作委員会


こうして構想から13年、企画から3年を費やして、ついに映画『半次郎』は完成し公開となった。<この地球をどうするかが、大切な課題だ>と言う榎木孝明氏。さて「半次郎」という人物をどのように演じたか、いや榎木氏の中に宿った半次郎がどのような人物なのか。
それは映画『半次郎』本編でご覧戴くことにしよう。
(取材協力:フィオーリア銀座アリアブル)

 


◆◆

幕末維新を駆け抜けた薩摩の快男児、中村半次郎の
波乱に満ちた生涯を描く、男騒ぎの戦争スペクタクル大河ロマン!
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(C)2010「半次郎」製作委員会

10月9日(土)公開

シネマート六本木ほか全国順次ロードショー!!


公式サイト 
http://www.hanjiro-movie.com

【作品概要】
2010年 日本
35㎜ シネマスコープ
DTSステレオ
上映時間:121分

企画:榎木孝明 
プロデューサー:坂上也寸志 
監督:五十嵐匠 
脚本:丸内敏治、西田直子 
キャスト:榎木孝明 AKIRA 白石美帆 津田寛治 坂上忍 永澤俊矢 広島光 北村有起哉 
田中正次 田上晃吉 雛形あきこ 葛山信吾 竜雷太  ほか
音楽:吉俣良
製作事務局:度會由美子、西田建一 
配給:ピーズ・インターナショナル
(P's international)
主題歌:「ソルヴェイグの歌」平原綾香(ドリーミュージック・)


【今日の一言】
『上野まり子のアジアンスターインタビュー』初の邦画紹介、日本人俳優へのインタビューはいかがだっただろうか。私としても初めての経験で戸惑う事も多かった。これまでは番組や内容の構成を考えながらインタビューをして来た。しかし今回、通訳も入らない日本語、つまり間で構成を考える時間はないに等しい。しかし榎木氏が大きく構えて下さった事で良いインタビューが出来たと感謝申しあげる。インタビュー前には私がCMの仕事をしていた時に、CM出演や絵の起用をオファーしたことなど、デビュー当時の懐かしいお話をさせて頂いた。20数年来の縁はこうしてインタビューという形で結ばれることになった。
 

【当サイト関連ページ】
http://uenomariko.blog.so-net.ne.jp/2010-10-09
http://uenomariko.blog.so-net.ne.jp/2010-10-18

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eyes

長い間温められてようやく産声を上げた作品なのですね。
榎木さん、素敵な方ですよね。
繊細な素晴らし絵をお描きになるんでしたね。
この映画、ますます見たくなりました。
by eyes (2010-10-19 21:31) 

上野まり子

eyes様

今日もご訪問ありがとうございます。
本当に半次郎という人物にほれ込んだという感じでした。
その想いが映画に込められています。
是非、ご覧下さい。

またお越しください。
by 上野まり子 (2010-10-19 22:43) 

たかぽん

榎木さん、本当に素敵な方ですよね。
とても繊細で器用で。
榎木さんの描かれる絵が大好きで、大分の美術館まで買いに行ったことがあります。
今部屋には、ギリシャやローマの絵を3点飾りっています。
知人にプレゼントした時もとても喜んでもらえました。
デパートの絵画展で購入した時、絵の裏にサインをして頂いたのですが、うっとりしたことを覚えています。
ドラマ(大河)でも活躍され、映画も楽しみです。


by たかぽん (2010-10-20 12:32) 

上野まり子

たかぽん様

ご訪問ありがとうございます。
私も榎木氏の優しい絵が大好きです。
年齢が上がっても素敵でいられるのは
内面が充実なさっているからでしょう。
映画、是非ご覧下さい。

またお越しください。

by 上野まり子 (2010-10-20 16:32) 

k-sakamama

こんばんは。
榎木孝明さんは、好きな俳優です。
爽やかな優しい笑顔、男前ですよね?^^
もう、公開しますね。
観に行こうと思います。
ありがとうございます。
by k-sakamama (2010-10-20 18:20) 

上野まり子

k-sakamama様

ご訪問ありがとうございます。
本当に素敵な笑顔です。
東京は公開中ですし、各地で順次公開予定です。
公式ページから上映劇場をご確認の上
是非、足をお運びください。

またお越しください。
by 上野まり子 (2010-10-20 19:29) 

param08

上野まり子さん お久しぶりです。
この映画、榎木さんが企画された映画だったんですね。

レポートを読ませて頂いて、とても観たくなりました。

幕末という時代に翻弄されたというか取り残された方の新撰組にずっとハマっていた時期がありましたので

時代を切り開いていった側の人たちに 今とても興味があります。

そして、江戸時代を知れば知るほど
日本人としての誇りを 何故現代の人々は、失ってしまったのかが
最近の 私の興味の対象です。

日本の歴史を知れば、知るほど
日本人の素晴らしさが分かって来た この頃です。

そういうモノをこの映画は、教えてくれそうな気がします。

今この時も 大きく世界が変わる時代だという気がしています。
本当に
変わらなければいけない そういう気持ちがしています。



by param08 (2010-10-21 21:06) 

上野まり子

param08様

ご訪問ありがとうございます。
お久しぶりですね。
<日本人の誇り>について
榎木さんも取り戻さなければと思っていらっしゃいました。
13年、ずっと思い続けてやっと映画という形になったものです。
その強い想いが感じられると思います。
是非、ご覧下さい。

またお越しください。
by 上野まり子 (2010-10-21 23:06) 

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